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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)12325号 判決 1996年3月19日

原告

村上忠雄

被告

千代田区火災海上保険株式会社

主文

一  被告は原告に対し金二三四八万一五四六円及びこれに対する平成六年一二月八日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対して金三九六四万九九〇二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年一二月八日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、道路外側線の歩道側に普通貨物自動車を停車させて荷物の積み降ろしをしていた原告に対して、後ろから軽四輪貨物自動車が追突し、原告が傷害を負つた事故であり、原告は車を使つた露天商であるので休業損害等が争われた事案である。

一  争いのない事実及び証拠により認められる事実

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 平成五年七月二一日午後一〇時〇五分頃

(二) 発生場所 和歌山市島崎町五丁目二九番地先路上

(三) 関係車両 訴外末廣昭男(以下「訴外末廣」という。)所有、運転の軽四輪貨物自動車(和歌山四〇よ一九五〇号、以下「末廣車」という。)

(四) 事故態様 原告が、原告車を道路外側線の歩道側に停車させ、後部で路上に立つて荷物の積み降ろし作業をしていたところ、後方から末廣車が原告に衝突した。

2  保険契約の締結

原告は、被告との間で平成四年八月二六日左記の自家用自動車総合保険契約を締結した。

(一) 記名被保険者 原告

(二) 被保険自動車 自家用軽四輪貨物自動車(なにわ四〇め五五四四号)

(三) 保険期間 平成四年九月九日から平成五年九月九日午後四時まで

(四) 対人賠償責任保険金額 無制限

(五) 対物賠償責任保険金額 一事故につき一〇〇〇万円

(六) 自損事故保険金額 一名につき一五〇〇万円

(七) 無保険車傷害保険金額 一名につき一億円

(八) 搭乗者傷害保険金額 一名につき五〇〇万円

(九) 保険料 九万二二八〇円

3  責任

本件事故の相手車である末廣車には、自賠責保険以外にその所有、使用、または管理に起因して他人の生命または身体を害することによつて、法律上の損害賠償責任を負う場合の損害を填補する保険契約または共済契約は締結されていない。

4  よつて、被告は原告との間に締結した前記保険契約の無保険車傷害保険契約に基づき、本件事故により生じた原告の損害について、末廣が損害賠償として支払う金額と同額を保険金として支払う義務がある。

二  損害填補

原告は自賠責保険金四五一万円の支払いを受けた。

三  争点

休業損害及び逸失利益

1  原告の主張

原告は本件事故当時、原告車を使つた食料品の行商により生計を立てており、原告の収入は、事故直前の平成五年一月一日から同年七月二一日の二〇二日間に三九四万一三三〇円、一日平均にすると一万九五一一円の収入があつたが、原告は本件事故により就労不能となり、平成六年一月二一日までの一八四日間にわたり全く収入がなかつたので、休業損害は三五九万〇〇二四円である。

2  被告の主張

原告は事故直前半年間の収入を前提にして休業損害を主張しているが、右計算の根拠としたのは、毎日の収入を記録したノートとこれに基づく税務申告であるが、平成五年度の税務申告においては、経費率が約四〇パーセントであるのに、事故後営業を再開した平成六年三月ころからの税務申告においては経費率が七九パーセントにもなつている。

原告は、車を使つた露天商であるので、通常の店舗営業に必要な固定経費の大部分を占める店舗賃借料、維持管理料、従業員給与などについてはその負担を免れているのであるから、経費率がこのように二倍に跳ね上がることの理由は分からず、結局申告内容の信用性が低く、帳簿や税務申告書から原告の現実の収入を認定することができないのであつて、結局、原告の所得については、賃金センサスによる平均給与を基準とすべきである。

第三争点に対する判断

証拠(甲一乃至五、六の一乃至三、七、八、九の一、二、一〇乃至二〇、二一の一、二、二二乃至二六、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

一  本件事故における、発生日時、場所、事故態様、保険契約の内容及び責任については、前記争いのない事実及び証拠によつて認められる事実のとおりである。

二  原告は本件事故により右腓骨骨折、右大腿部・左下腿打撲、右前腕・右手挫創、右下腿挫創、右膝関節内障、右腓骨神経麻痺、右足関節捻挫、右膝関節前十字靱帯損傷の傷害を受けた。

原告は、右傷害により、平成五年七月二一日から同年一一月二二日まで医療法人瀬藤病院(以下「瀬藤病院」という。)に入院し、退院後同年一一月二三日から平成六年一月二一日まで同病院に通院し(実通院日数八日)、他に平成五年一一月二九日から平成六年一月三一日まで南生クリニツクに(実通院日数三七日)、平成五年一二月一四日から平成六年一月一八日まで和歌山県立医科大学附属病院(以下「和歌山県立病院」という。)に各通院(実通院日数二日)し、平成六年一月一八日に症状固定した(甲一〇)。

三  損害額(括弧内は原告の請求額である。)

1  治療費(六四万七一一〇円) 六四万七一一〇円

治療費については、瀬藤病院分が六二万三五七〇円(甲六の一乃至三)、南生クリニツク分が一万八五七〇円(甲九)、和歌山県立病院分が四九七〇円(甲九の一、二)が認められそれらの合計額は六四万七一一〇円である。

2  装具代(九万九一九六円) 九万九一九六円

装具代については、自賠責から関西義肢に支払われた八万七七五一円及び原告の支払つた折りたたみステツキ代五五〇〇円(甲一三、一五)及びクロスベルトの代金五九四五円(甲一四、原告本人供述部分)であり、その合計額九万九一九六円が認められる。

3  付添費(一八万九〇〇〇円) 一八万九〇〇〇円

平成五年七月二一日から同年八月三一日までの四二日間については付添看護を要する期間として認められるので(甲五)、付添費については、一日当たり四五〇〇円として算定すれば一八万九〇〇〇円となる。

4  入院雑費(一六万二五〇〇円) 一六万二五〇〇円

原告は平成五年七月二一日から同年一一月二二日まで瀬藤病院に入院したのであるから、入院雑費については、一日当たり一三〇〇円として入院期間一二五日を乗じると一六万二五〇〇円となる。

5  交通費(二万一六〇〇円) 二万一六〇〇円

原告は、瀬藤病院、和歌山県立病院に合計一〇日間通院し、右交通費が一回当たり電車利用で往復二一六〇円で、合計二万一六〇〇円を要したことが認められる。

6  休業損害(三五九万〇〇二四円) 三三五万五八九二円

原告は、九年程前から露天商を始め、営業はカセツトテープをかけながら車を流し、車を停めて販売する方法で行い、一年のうち四月から九月の半ばまでがわらび餅を一一月から三月まで石焼き芋をそれぞれ販売していた。

露天商による営業の収入や支出については、原告は、営業を始めた頃よりノートにつけており、平成四年一一月二九日から本件事故の前日である平成五年七月二〇日まで記載のあるノート(甲一八、一九)を証拠として提出する。

原告は、本件事故前には所得税の申告はしておらず、また、税金も納付しておらなかつたが、本件事故後、府営住宅へ入居するに際し、税務申告する必要が生じたことから、平成五年度分と平成六年度分についての申告をしたものである。

平成五年分確定申告書によれば収入金額が六五六万八五〇〇円、所得金額が三九四万一三三〇円となつていて(甲二〇)、平成六年度市民税・府民税申告書も同額となつている(甲一六)。

しかし、平成六年分確定申告書では、収入金額が五二四万五二五〇円、所得金額は一〇九万八四一七円となつている(甲二一の一、二)。右いずれもの申告書の収入金額及び必要経費については、市役所の職員が原告の持参した前記ノートを見て記載したとのことである。

被告は、原告が、平成五年分の確定申告について、経費率が約四〇パーセントであるのに、事故後営業を再開した平成六年三月頃からの税務申告においては経費率が七九パーセントになつており、原告は通常の店舗営業に必要な固定経費の大部分を占める店舗賃借料、維持管理料、従業員給与などについてはその負担を免れているのであるから、経費率がこのように二倍に跳ね上がることの理由は分からず、原告のノートの記載は信用できない、と主張する。

これに対して原告は、平成二年から平成四年までについての前記ノートと同様に収入、経費について記載したノート(甲二二乃至二五)を提出して、右期間での経費率はほぼ一定で四割位であり、平成六年の経費率が高いのは本件事故のため営業実績が上がらなかつたこと、売上が低い程経費率は高くなり(甲二六)、その結果、平成六年度の経費率が高くなつたものである、と主張する。

ところで、右の点については、平成六年分の収入及び経費について記載したノートが証拠として提出されていないので、経費率が特に高くなつた理由については明らかではない。

しかしながら、原告の提出した平成三年以降のノートに記載した収入、経費については、ほぼ事実どおりに記載したものと認められるので、原告の収入は、平成五年一月一日から同年七月二一日までは前記確定申告書のとおり三九四万一三三〇円であり、右金額を同日までの期間である二〇二日で除すると、一日当たり一万九五一一円であり(円未満切り捨て、以下同じ。)、原告が本件事故により入院していた期間である一二五日は就労不能であるので右期間全部と通院期間の四七日の合計一七二日間について前記一日当たりの金額を乗じると休業損害は三三五万五八九二円である。

7  逸失利益(三〇三五万〇四七二円)一七〇一万六二四八円

原告は、本件事故による後遺障害として、右母趾の用廃により自賠責法施行令二条別表後遺障害等級一二級一一号、右膝関節の機能障害により同一二級七号に各該当し、併合一一級と認定された(甲一二)。

被告は、原告の後遺障害による労働能力の喪失期間について、原告の後遺障害は膝関節の機能障害であつて生涯回復不能とは言えないこと、原告は症状固定時二八歳であつたことから、リハビリ等の筋力強化により機能障害が軽減されるので労働能力喪失期間は一〇年間である、と主張する。

しかしながら、原告の後遺障害は右母趾の用廃及び膝関節の機能障害であること、将来において機能障害が軽減される可能性は否定できないが、確実に軽減されるとは断言できないものであるので、労働能力喪失期間は就労可能年数までとする。

原告の後遺障害による逸失利益については、原告の本件事故前の収入については前記認定のとおりであるが、原告の露天商の仕事の収益が就労可能年数に至るまで同一の額で継続するとも言いえないので、原告の収入については平成四年賃金センサス産業計・企業規模計・新高卒男子労働者の平均賃金三九九万二七〇〇円を基礎とし、六七歳まで就労可能とし、労働能力喪失率を二〇パーセントとして新ホフマン係数により損害の現価を算定すれば次の計算のとおり一七〇一万六二四八円となる。

3992700×0.2×21.3092=17016248

8  入・通院慰謝料(一五〇万円) 一二〇万円

入・通院慰謝料としては一二〇万円が相当である。

9  後遺障害慰謝料(四〇〇万円) 三三〇万円

後遺障害慰謝料としては三三〇万円が相当である。

10  損害額小計

以上のとおり認められるので、原告の損害は二五九九万一五四六円である。

四  損害の填補

原告は自賠責保険金四五一万円の支払いを受けているので損益相殺すると損害額は、二一四八万一五四六円である。

五  弁護士費用

弁護士費用としては二〇〇万円が相当である。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、被告に対し二三四八万一五四六円及びこれに対する平成六年一二月八日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 島川勝)

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